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漫画「ザ・ワールド・イズ・マイン」を読んで

大変遅ればせながら、つい先日漫画「ザ・ワールド・イズ・マイン」を読みました。

作品としての概要は下記のようです。

新井英樹によって週刊ヤングサンデー1997年2001年まで連載され、小学館から単行本全14巻(B6版)が発売されたが、すぐに絶版2006年エンターブレインから、ストーリー変更はないが大幅に加筆・修正・著者インタビューを追加した豪華版『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』全5巻(B6版)が改めて出版された。

ザ・ワールド・イズ・マイン - Wikipediaより一部引用

 私が読んだのも「真説」の方です。簡単なあらすじはこんな感じ。

モンちゃんとトシの二人組(通称トシモン)は、これといった理由もなく連続爆破、警察署襲撃、殺人代行といった日本全土を震撼させる無差別殺戮を開始する。それは内閣総理大臣までも舞台へと引きずり出す大きな勢いとなる。時期を同じくして、北海道から津軽海峡を渡ったといわれる謎の巨大生物「ヒグマドン」が出現し、次々に人々を惨殺して東北を南下していった。

ヒグマドンは、自衛隊による捕獲が決定され仙台市で仮死状態にされる。その後太平洋を海上輸送されたが途中で巨大化。水爆を打ち込まれることでようやく成長が止まった。

トシモンは大館のマリアを道連れにする等、紆余曲折を経ながらも無差別殺戮を繰り返す。しかし、とうとう警察に追いつめられ、やがて秋田県内の山中へと逃走。トシだけが逮捕される。一方、モンちゃんは国内の支持者を使って関東同時多発テロを引き起こし、その後に海外に脱出。世界のテロリストのカリスマとなった。こうして世界は殺伐としたまま、今までと変わらず続いていくと思われたが・・・。

ザ・ワールド・イズ・マイン - Wikipediaより一部引用

 このあらすじだけで物語の概要をつかむことはまず不可能でしょう。この作品はあらすじとして要約することがかなり困難なほど複雑かつ壮大な物語なのです。

この作品について書いているブログ等のウェブサイトは少し検索するだけで相当数見つけることができます。しかし、それぞれのサイトにおける感想、考察は当然のこと、あらすじにも大きく差があります。それは、各読者による物語に対する主軸の据え方に読者のそれまでの生き方から得た哲学や価値観が色濃く反映された結果、要約した物語の本筋、意味が大きく異なったのだと思います。したがって、この作品に関して言えば関連文章(もちろん、拙ブログを含め)を読んだところで、作品そのものを読んでいなければ本当の意味でのいわゆる”ネタバレ”にはならないでしょう。それどころか実際自分で作品を読んだ後に「何だよ、あのサイト。全然漫画と違うこと書いてたな。」何てことも思いかねません。なぜなら、その文章を書いた人の人生と、漫画をやっと読んだあなたの人生は全く異なるのですから。

また、先に紹介したウェブサイトの関連文章や専門家の書評をいくつ読んでも、こうして自分で文章を書いてみても、この漫画から得られる自分にとって有意義(であろう)問いはまだまだ尽きそうにありません。そのことからもこの漫画が様々な背景や経験、それによる価値観を持つ多くの鑑賞者の思考を全部丸飲みにしてもまだ余幅がある器の大きな作品であることが分かります。そう言った作品はもちろんこの漫画だけではありませんが、この漫画もそういった作品の一つであることは間違いないと思います。

「人命の重さ」

「人を殺してはいけない理由」

「全ての生物が自由に平和に生きられる世界」

これらは作中に明確に出てくる問いの一部です。ここで予め注意しておきたいのはあくまでこの問いは”この作中に出てくる問い”なのであって”この作品自体が提示する問題ではない”ということです。私の考えではこの作品自体は読者に対して何の問題提示もしていません。特段、思想的な何かを示唆する訳ではもなく「こういった問題意識は君にあるのか!!??」という迫りくる鬱陶しさもなければ、「君たちが気づかない内に洗脳してやるぞー。」といういやらしさもありません。キャラクター同士が哲学的な問いかけをし合う場面もありますが、その問いかけの関連性が一つの漫画自体の主題を示しているということもないですし、また各問いに対する答えをキャラクターを通して作中で明確に答えたかと思うとそうでもなかったりします。正義・平等・暴力・破壊・愛・未来・力・希望・社会・絶望等々にまつわるありとあらゆる問いが、絶え間なく自分の中にわき起こり、取りかかろうとする瞬間「そんな瑣末なことは捨て置け!」と言わんばかりにどんどん物語は展開していきます。しかし、いったん本を閉じるということは出来ないのです。

(漫画という媒体のもつ特性によるところも大きいが)壮大な舞台を陳腐に見せない画の力強さ、場面場面がもつドラマ性の高さ、無自覚にページをめくらせるストーリーの疾走感、どれだけ眼と心が疲れても本を手放させない求心力、と分かりやすい褒めポイントすべてを兼ね備えているのにもかかわらず、それらはこの漫画の存在感を表すのに何の意味も持たないような気がする、非常に希有な作品だと思いました。 

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)