第四回 美術批評を知っていますか

 今回は、明治時代後期の美術批評の書き手たちについてです。先回で書いたように、明治二◯(一八八七)年代は様々な文化における標準が求められた時期でした。その後、明治三◯(一八九七)年ごろには戦争景気によって美術品そのものの需要とともに美術関係の出版も増加します。標準を求めはじめた人々にメディアの隆盛期が訪れた、この状況は、これまで以上に多くの発信者、書き手をうみだします。

 ここでは、この時期にあらわれた美術批評の専門家ではない(=非美術批評家)が美術批評をした書き手らを、その属性ごとに大別して紹介するとともに、美術界の外側における美術批評家観について考えてみたいと思います*1

*1:今回の記事で用いている基礎的な情報については、神内有理「第三章 美術批評専門雑誌『美術評論』創刊ー「専門化」の時代」『<美術批評>の十九世紀』(京都造形芸術大学、博士論文、二◯◯九年)を、参照、参考にしています。

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第三回 美術批評を知っていますか

 四か月以上ぶりの更新となってしまいましたが、引き続き六回連載の第三回を書きます。第一回は序論というか、私の心持ちを、第二回はアーネスト・フェノロサの活動から、日本における”もの”→”作品”をみつめるまなざしについてを書きました。確認がてらもう一度読んでやってもいいという奇特な方はリンクからぜひご再読ください。

 今回は、今日では誰でもが知る森鴎外(もりおうがい)がまだ一介の医学生森林太郎(もりりんたろう)だったころに、帝国大学(現在の東京大学)教授外山正一(とやままさかず)に雑誌面上で論争を仕掛けたお話を中心にしていきます。

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第二回 美術批評を知っていますか

 大変おひさしぶりの更新になってしまいました。今回は既に予告している通り日本の美術批評史上における大きなできごととしてアーネスト・フェノロサの活動について書いていきます。日本美術に対する功罪どちらの側面でもよく語られるフェノロサですが、日本の美術批評にも一枚も二枚もかんでいました。

 

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第一回 美術批評を知っていますか

 プロフィールにもありますように私は来年度、2016年度から歴史を学ぶ予定です。今のところ美術批評史について以前書いたようなことを研究したいと考えています。その入学試験にはそのテーマに関する12,000字程度の論文を提出しました。そこで、今回から以降6回にわたってその内容について書きたいと思います。

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2016年、何となく、ぼんやり、「歴史」の話

 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

 本年もどうぞよろしくお願いします。

 

「日本」という国の名前はいつ決まったのでしょう? 

 さて、今日日本の伝統行事だとされているお正月の「初詣」は、明治時代に習慣化され、その言葉がうまれました*1そして、現在私たちが当たり前のように日常的につかっている「美術」「建築」などのさまざまな日本語も明治時代につくられました*2

 では、「日本」という国の名前はいつ決まったのでしょう。

 

*1:Wikipedia参照 初詣 - Wikipedia

*2:但し、「初詣」は「年籠り」が転じたものですが、「美術」「建築」などは"art""architecture"の翻訳語として新たにつくられた日本語であるため、その点で性質はことなります。

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結婚ってなんだろうー字面の結婚、みんなの結婚

 今月のはじめ、高専時代からの友人の結婚式に参列してきました。友人は元々かなり顔は整ってる方ですが、花嫁姿は特別美しかったです。その美しさに触発されてか、改めて「結婚」について考えてみたくなりました。

 好きな人と一緒に生活すること?

 新しい家庭をつくること?

 ふたつの親族を結びつけること?

 誰かと同じ名字になること?

 「結婚」って何なんだろう。

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桜に心震う。

これこそ正にカルチャーショック

「美術」や「絵画」「彫刻」という言葉が、実は明治期につくられた言葉だということをご存知でしょうか。

美術館や美術展がきわめて身近なものとなった今日、「美術」という言葉はあまりにも平凡な日常用語として定着しているので、実はそれが明治期になってから生まれた造語であるという事実はほとんど忘れられてしまっている。例えば、江戸時代には「美術」はなかったと言われれば、誰しも意外な思いをさせられるであろう。

高階秀爾『西洋の眼 日本の眼』pp264より引用

ちなみに、お正月の初詣も明治期に創りだされたものだそう。※1

(さらに付け加えると、「建築」もです。)

私たちが「文化的伝統」だと信じている、というより無意識に何の気なくそうだと思っているものは、想像より多く、日本の近代化による産物なのかもしれません。

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